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ユネスコ世界遺産条約の精神と善光寺
 1972年のユネスコ世界遺産条約は、現在世界に残された貴重な文化遺産及び自然遺産の保護が、世界平和の実現というユネスコ憲章の理念に沿うものであり、その保護対策に対する国際的協力の必要性が表明されている。ユネスコ憲章には、「各国が相互の風習と生活を知らないために疑惑と不信を起こし、それがあまりにもしばしば戦争となった…」という 20世紀前半の二つの大戦の反省から、世界の人々が互いの歴史文化、生活習慣を理解し尊重しあうことが世界平和へのより確実な道だとしている。この憲章を受けて遺産条約では、各国に残る多様な文化遺産等を消滅や破壊の危険から守り未来に引き継ぎ、世界の人々が文化の多様性を学び合う拠り所となるように、それらを世界の遺産として保護していくことは国際社会の任務であるとする。
 ユネスコ世界遺産条約の精神とは、各国各民族が有する伝統文化や過去の遺産を先ず自分達が正しく評価認識し、それらの全てを自国の法制度によって適切に保護、保存及び整備することを、国際的に鼓舞し又は支援していこうという精神であり、それが異なる文明間、民族間の争いを無くし、世界平和を実現する確実な道であるとする精神である。
 この精神から善光寺の世界遺産運動を考えれば、その目標を世界遺産リストへの登録にだけ置くのではなく、先ず私達が培ってきた善光寺文化の独自性とその価値の明確化、及びそれに対応した文化財の復元と歴史的環境の修復整備に置かなければならず、それを進めることによって世界遺産登録の区域や意味付け等、登録の条件と価値を明らかし、その上で始めて世界遺産登録の可能性が生れるといえるであろう。

善光寺文化の独自性
 善光寺文化の空間的特徴として、寺の境内と門前町が空間的に連続していること、及びそれらが南北方向の軸線によって構成されていることがある。国内外の主要な社寺では、境内を聖なる宗教空間として俗なる町空間と分離することが多いが、その間が連続し融合している例として善光寺と門前町との関係は貴重である。大門町・宿坊・仲見世という町空間と本堂との間は山門を挟んで程よい距離にあり、その間に塀や堀等のバリアーがなく、全ての人を差別なく迎え入れられるようになっている。これは宗派の別、性別、身分、職業等に関係なく、病人や障害者をも含めて、全ての人を受け入れるという善光寺信仰の姿に対応したものと考えられる。
 また、長野の中心市街地と善光寺の伽藍配置は南北方向の中央通りを基準に形成されており、このような都市の軸線はヨーロッパを始め世界各地の都市計画で昔から使われてきた評価の高い計画手法であるが、日本では極めて少ない。特に長野のように見事な軸線構成は国内では他に例がなく、極めて貴重である。
 軸線構成の価値は都市の分りやすさと景観の美しさにある。長野駅を少し出た南端からほぼ真っ直ぐに北上する中央通りは、中間から緩い上り勾配となり、次第に門前町の雰囲気を高めながら大門町から宿坊群、仁王門、仲見世通り、山門を貫いて本堂正面にぶつかっている。この間約1.8キロ、歩いて30分という距離と道幅18メートルは人間的尺度として適正であり、市民にとっても旅行者にとっても町の姿が分りやすく生活に便である。
 善光寺平の北端の緩い台地の要点に善光寺を配置し、それに向って南方から一直線に参詣道を引いた昔の人の知恵、地形と景観に対する深い読みには敬服する。その参詣道を軸に門前町が形成され、明治以降は急激な都市化が進んだが、現在でも長野の町のアイデンティティが善光寺と門前町の歴史的環境にあることは確かである。
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